ヒトの血しょうは表1右欄に示す無機イオンからなる。そこで、これに近い無機イオン濃度を有する水溶液を次のようにして調製し、これを擬似体液と呼ぶ。この擬似体液は、生体活性セラミックスの生体内での表面構造変化を体外で比較的正確に再現し得ることが確かめられている。
1.器具の洗浄
1,000 mLのポリエチレンビーカー、1,000 mLのガラスメスフラスコ及び50 mLのガラスメスシリンダーを1 M程度のHCl水溶液と実験器具用洗浄剤(SCAT)でこの順に十分に洗浄する。その後、蒸留水で十分に洗浄する。秤量瓶を、超音波洗浄器中でアセトン及 び蒸留水を用い、この順で十分に洗浄する。洗浄した秤量瓶を60〜100℃の乾燥器中で乾燥させる。秤量瓶は、使用する前に乾燥器から取り出し、室温まで 冷やす。
蒸留水、NaCl、NaHCO3、KCl、K2HPO4・3H2O、MgCl2・6H2O、CaCl2、Na2SO4の各試薬、pH調節用のトリスヒドロキシメチルアミノメタン((CH2OH)3CNH2) 緩衝剤及び1 Mの塩酸(HCl)を用意する。1,000 mLのポリエチレンビーカーに約700 mLの蒸留水と撹拌子を入れる。これを図1に示すようにマグネティックスターラー上に置いた恒温槽に入れ、蒸留水を撹拌しながら36.5℃に保つ。ビー カーには、時計皿でふたをする。この蒸留水に上記の試薬を表2に示す順に溶液に溶解させる。一度に複数の試薬を投入しないで、それぞれの試薬が完全に溶け てから次の試薬を順に加えていく。吸湿性のKCl、K2HPO4・3H2O、MgCl2・6H2O、CaCl2、Na2SO4の秤量は短時間で済ませるように注意する。
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まず、pHメーターを正確に校正する。電極を蒸留水で十分に洗浄し、上記の液のpHを測定する(この時点でpHは約7.5になっているはずである)。この液に1 M-HClをスポイトで徐々に滴下し、そのpHを7.40に調節する。いったんpHを7.40以下にすると、再びpHを上げても擬似体液としては使えない。pHメーターの電極を液から取り出し、蒸留水で洗浄し、その洗液を上記の液に加える。この時点で液量は約900 mLになっているはずである。この液を1,000 mLのメスフラスコに移す。もとのビーカーを蒸留水で十分に洗浄し、洗液をメスフラスコ内の液に加える。
4.濃度の調節
メスフラスコ内の液に蒸留水を少しずつ加え、液面を1,000 mLの標線に正確に合わせる。メスフラスコを振り、液を十分混合し、これを擬似体液とする。
5.保存
擬似体液はポリエチレンまたはポリスチレン製の瓶に入れ、5〜10℃の冷蔵庫で保存し、なるべく早く使いきること。
上記の擬似体液作製プロトコルは以下の文献に基づいている。
S. B. Cho, K. Nakanishi, T. Kokubo, N. Soga, C. Ohtsuki, T. Nakamura, T. Kitsugi, T. Yamamuro, "Dependence of Apatite Formation on Silica Gel on Its Structure: Effect of Heat Treatment", J. Am. Ceram. Soc., 78, 1769-1774 (1995).
擬似体液に関しては以下の論文も参考となる。ただし、この初期の論文では擬似体液の組成にSO42-イオンが含まれていないことに注意する。
T. Kokubo, H. Kushitani, S. Sakka, T. Kitsugi and T. Yamamuro, "Solutions able to reproduce in vivo surface-structure changes in bioactive glass-ceramic A-W", J. Biomed. Mater. Res., 24, 721-734 (1990).
以下の文献及びISO規格においては,試薬の純度を考慮して配合量を修正したプロトコルが示されている。
T. Kokubo and H. Takadama, "How useful is SBF in predicting in vivo bone bioactivity?", Biomaterials, 27, 2907-2915 (2006).
ISO 23317:2012, "Implants for surgery -- In vitro evaluation for apatite-forming ability of implant materials"