ニュースレター「THE DIVISION」

REPORT「学会参加報告」から



第2回生体関連セラミックス・ビギナーズセミナー
岡山大学大学院 自然科学研究科
前期博士課程2年 籔田 武司

 第4回生体関連セラミックス討論会,第2回生体関連セラミックス・ビギナーズセミナーが,去る11月30日から12月1日に,大阪市中央区,エルおおさかにて開催された。
 本セミナーでは3件の特別講演が催された。それぞれの講演者と講演タイトルは次の通りである。今井宏明 氏(慶應義塾大)「自己組織化を利用したバイオミメティック材料の合成」,植村寿公 氏(融合領域研究所)「細胞工学の基礎と展望」,小林章郎 氏(大阪市立大)「人工関節手術におけるセラミックスの役割 ミ摩耗せずゆるまない人工関節を目指して-」。
 今井先生は「self-organization」を利用して様々な形態の結晶物質を合成されていた。未だに謎めいた部分が多いのですが,そのユニークな形態に魅力を感じました。このような複雑な三次元的構造の構築というのはこれから先のテクノロジーに無くてはならない技術ではないかと思いました。植村先生は組織工学という,新しいテクノロジーについて貴重なお話をしてくださいました。組織工学という分野はこれから先,バイオマテリアルの分野では非常に重要なテクノロジーになるということを痛感しました。特に,骨芽細胞を用いた細胞培養では,繰り返して機械的刺激を与えると,その成長が促進されるという現象には非常に驚きました。そういえば我々の歩行運動というのがちょうどその刺激に対応するのだろうと思いました。最後のご講演は小林先生による人工関節のずれに関するものでした。日頃医師の立場からの話を聞く機会がなかなか無い学生にとっては,非常に興味深い話であり,さらに我々の研究する意義がたくさん存在するということを再確認できました。さらに,実際に手術を行う立場の意見が聞けて,とてもいい勉強になりました。
 講演終了後のフリーディスカッション(軽食付き)という今回初めての試みは,前夜の懇親会よりもさらにアットホームな感じで,ご講演された先生や企業の方と学生との間で情報交換ができ,非常に有意義であったと感じています。このようなところがビギナーズセミナーらしくて,これからも是非続いて欲しいと感じました。来年も是非このような企画を催して欲しいと思います。

(2000年12月26日発行、The Division No. 8より)



第4回生体関連セラミックス討論会
岡山大学自然科学研究科システム科学専攻
油谷 康

 「第4回生体関連セラミックス討論会」が平成12年11月30日,12月1日の2日間,大阪市中央区のエル・おおさかにて開催されました。今回の研究発表では,「アパタイト」,「セラミックス・分極」,「バイオミメティック」,「核生成・成長」,「複合体」,「合成・評価」,「生体活性」のセッションがあり,1会場で44件の口頭発表が行われました。
 「アパタイト」,「セラミックス・分極」について,アパタイト多孔体の合成手法やアパタイトの生体内吸収性,分極させたアパタイト表面での細胞分化・骨組織反応・エレクトロベクトル効果などの報告がありました。「バイオミメティック」については,アパタイトによるマイクロパターンニングや鋳型を利用したアパタイトの自己組織化といった報告がありました。また,アパタイトの核形成や成長に関する報告もあり基礎科学的な研究についても討論されました。「複合体」,「合成・評価」のセッションではアパタイトとコラーゲンの複合体,脂質を用いた人工細胞膜型ハイブリッド,リン酸の骨粗鬆症治療への応用,ガン放射線治療用ガラス,などの報告がありました。「生体活性」のセッションでは多孔質結晶化ガラス,分極ガラス,CaSiO3セラミックス,PMMA系骨セメント,有機高分子等への生体活性付与やその生体活性能についての報告がありました。いずれのセッションにおいても,生体の一部分を代替するような材料として実際に使用が可能なのかといった,技術や材料の提案だけで終わらない「実用性」を考えた上での意見や質問が多くみられたように思います。
 この討論会はそれぞれの研究者が持っている疑問や問題点を深く討論できるように,質疑討論の時間も発表時間と同程度設けられています。どの発表においても,参加者からの活発な質疑討論があり,時間が超過しても討論が続くということもありました。発表に対する質問も掘り下げたものが多く,討論会という名にふさわしい雰囲気でした。
 また,討論会の初日が終わった後行われた懇親会で,学生からの質問が少ないという意見があったことから,2日目は座長の方から学生を指名する形で学生に質問を促すといった場面もみうけられました。本討論会は,様々な意見・質問を通じて無機物質と生体関連物質との関連について学び,セラミックスの医療,バイオテクノロジー,組織工学,などの各種技術への応用の可能性を探るための討論会となったように思います。
 討論会1日目終了後,同じエル・おおさか内で開催された懇親会についても,和やかな雰囲気で討論会では聞けなかった質問などについても,いろいろと語り合えたのではないかと思います。

(2000年12月26日発行、The Division No. 8より)


日本バイオマテリアル学会シンポジウム2000
京都大学工学研究科材料化学専攻
大矢根 綾子

 去る平成12年11月7日、8日の2日間、横浜市みなとみらいのパシフィコ横浜会議センターにおいて、日本バイオマテリアル学会 シンポジウム2000が開催された。今回の学会では、8つのシンポジウム、特別討論、企業からの発信、日韓若手交流シンポジウム及び一般ポスター発表などが行われ、2000年記念大会にふさわしい盛りだくさんの内容となっていた。従来のバイオマテリアル学会と異なり、本学会ではシンポジウムに重点がおかれ、一般発表の多くはポスター発表であったことが特徴的であった。シンポジウムでは、オーガナイザーによる趣旨説明、依頼講演、一般発表に続いて、総合討論が行われた。本稿では8つのシンポジウムのうち、硬組織に関わるバイオマテリアル及び、組織工学のためのバイオマテリアルについての、2つのシンポジウムについて報告する。
 1日目に行われた、硬組織に関わるバイオマテリアルについてのシンポジウムでは、まず京都大学の中村孝志先生による整形外科領域での硬組織材料の現況と展望についての発表が行われた。ジルコニアとアルミナを複合化させた最新の硬組織材料についても述べられた。次いで、新たに開発された生体活性ペーストの臨床応用結果や、分極処理したアパタイトの新生骨形成能、亜鉛徐放性リン酸カルシウムセラミックスの長期埋入試験結果、培養骨移植による骨再生、生体分解性複合スポンジを用いて軟骨組織を再生させる試みにについての発表が行われた。培養骨移植による骨再生についての発表では、ヒト骨髄細胞由来の培養人工骨が骨再生能を有すること、及びビーグル犬骨髄細胞由来の培養人工骨が自家移植系で骨再生能を有することが示された。
 2日目に行われた、組織工学のためのバイオマテリアルについてのシンポジウムでは、凍結保存組織バンク及び、Cell Processing Centerの重要性についての発表、広島県組織再生プロジェクト研究の現況についての発表が行われた。次いで、近年発足する、理研発生・再生科学総合研究センター及びティシューエンジニアリングセンターについての発表が行われ、各プロジェクトの内容や目的等が紹介された。最後に、新規医療産業としての再生医療の展開についての発表が行われ、日本の再生医療が産業化面で欧米に遅れをとっていること、再生医療を新規産業に育成するためには産官学がベクトルを合わせて取り組む必要があることなどが指摘された。
 以上のように、本学会で行われたシンポジウムでは、バイオマテリアルの各分野における研究、開発の動向と現況が発表されると共に、今後の展開についての提言がなされた。近年発足する理研発生・再生科学総合研究センターやティシューエンジニアリングセンターに代表されるように、本分野に対して、産官学からの期待が高まっていることを感じた。バイオマテリアルの重要性及び、バイオマテリアル研究者の使命を再認識することができた。

(2000年12月4日発行、The Division No. 7より)


日本セラミックス協会第13回秋季シンポジウム
“セラミックスの生体関連機能・構造・物性”セッション
京都大学工学研究科材料化学専攻
内田 昌樹

 去る平成12年10月11日から13日までの3日間にわたり、北九州市小倉の北九州国際会議場及び西日本総合展示場において日本セラミックス協会第13回秋季シンポジウムが開催された。今回のシンポジウムでは8つのテーマでセッションが開催されたが、本稿では“セラミックスの生体関連機能・構造・物性”のセッションについて報告する。本セッションは、医療用材料として適した新規無機材料の開発やその物性評価、生物が無機物質を作り出す過程を参考にしたセラミックスの新規な合成方法の開発などについての研究成果を報告するために開催された。
 1日目には、金属上にリン酸カルシウムをコーティングするための新規なプロセスの開発や生体環境下で表面にアパタイトを形成する材料の創製、さらに分極処理したアパタイト上での骨形成機構を観察した結果などが報告された。2日目には、依頼講演として、九州大学大学院の村上輝夫先生による、人工股関節用セラミックスの摩耗特性に関する講演と、同じく九州大学大学院の君塚信夫先生による、自己組織性を有する無機-有機ナノ組織体の構築と特性についての講演が行われた。村上先生の講演では、人工股関節の骨頭と臼蓋をともにセラミックスで置き換えた場合に起こるセラミックス同士の摩耗をシュミレーターを用いて評価した実験結果が報告され、今後より実生活に近いシュミレーションを行う必要があるとの指摘がなされた。君塚先生の講演では、金属錯体と脂質により自己組織性を有する無機-有機複合ナノワイヤーが作製できることが示されると共に、それらの複合体が示す興味深い物性についても紹介された。一般講演では、リン酸カルシウム系材料や生体活性を有する有機-無機複合体の作製とその物性評価、アパタイト形成を基板上のパターニングに応用した研究などが報告された。3日目には分極処理したアパタイト上での細胞培養の結果や、癌治療用セラミックス材料の作製などが報告された。
 セラミックス協会のシンポジウムの中でも、発表中に金属や高分子、細胞などの話がこれほど頻繁に登場するセッションは本セッション以外ないのではなかろうか。今回のシンポジウムを通して、生体関連無機材料の研究を遂行していくためには、単に無機材料の知識だけでなく、金属や高分子、生化学などの知識も必要とされると痛切に感じた。実りある成果を得るには、研究者各人が幅広い知識とその活用法を身につけると共に、高分子や生物の研究者とも協力して研究を進めていく必要があるのではないかと思う。

(2000年11月1日発行、The Division No. 5より)



最終更新日:2004年8月3日

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