ニュースレター「THE DIVISION」

REPORT「学会参加報告」から


第14回医用セラミックスに関する国際会議
(14th International Symposium on Ceramics in Medicine)
京都大学工学研究科 材料化学専攻
金子 秀樹

 去る2001年11月15日から17日までの3日間にわたり、アメリカ合衆国、パームスプリングスのヒルトンホテルにて第14回医用セラミックスに関する国際会議(14th International Symposium on Ceramics in Medicine: Bioceramics 14)が行われた。9月11日に起こったアメリカ同時テロの影響などにより多少の混乱があったが、学会は無事に行われた。今回の学会では22のテーマでのセッションに加え、研究に関するポスター展示が行われた。口頭発表では質問だけでなく議論するための時間も設けられ、特に盛んな議論が行われた。また、プロジェクターを用いた発表が多く、IT時代を反映しているものであった。本稿では、主に口頭発表について報告する。
 1日目には、ハイドロキシアパタイトを代表とするリン酸カルシウムについての研究が報告された。午前中のセッションでは、フルオロアパタイトに関する多くの報告があり、アパタイトという材料の応用性が感じられた。また、AFMによって直視的にアパタイトの形成過程を観察するというものから、NMRを用いてリン酸カルシウムの分析を行うという独創的な研究も多く報告された。
 2日目の午前中は、材料表面におけるアパタイト形成能についての多くの研究が報告された。材料としてチタニアを用いるものが数多く報告され、その注目度の大きさを感じた。午後においては、骨セメントに関する報告が行われた。材料研究者はもちろん多くの医師を含めての活発な議論が行われていた
 3日目は、主に人工股関節についての研究報告が行われた。様々な材料の成功例や失敗例が数多く紹介され、人工股関節の発展につながる議論がかわされていた。また、膝関節の例もいくつか紹介され、最新の膝関節はいい成績を収めていることがわかった。今後、世界が高齢化社会を迎えていくにあたって、これらの人工関節の重要性が増していくと思われた。
 今回のシンポジウムでは、様々な国の研究者の発表を聞くことができた。その中で、国によって、力を入れている分野とそうでない分野があるように感じられた。各国の研究者達がそれぞれの国の得意分野でのみ研究するのではなく、国際的にそれぞれの国の得意分野を融合して研究していくことが必要と感じられた。それと同時に、国際学会の意義を再認識させられた。

(2001年12月1日発行、The Division No. 28より)


日本セラミックス協会 第14回秋季シンポジウム
京都大学工学研究科 材料化学専攻
松本 修一

 去る平成13年9月26日から28日までの3日間にわたり、東京都目黒区の東京工業大学大岡山キャンパスで日本セラミックス協会第14回秋季シンポジウムが行われた。今回の学会では7つのテーマでのセッションに加え、21世紀記念式典、セラミックス関連企業のパネル展示、各部会主催の記念行事など21世紀記念大会にふさわしい盛りだくさんの内容となっていた。本稿では、1日目、3日目行われた「バイオセラミックスの創製」のセッション及び2日目に行われた戦略フォーラム、「生体材料の新展開」について報告する。
 「バイオセラミックスの創製」のセッションでは、1日目には、放電プラズマ焼結によるOH制御アパタイト緻密体の作製や非化学量論性ハイドロキシアパアイトを熱処理した後、電子顕微鏡で観察した結果、さらには分極誘起表面電荷が水酸アパタイトの骨誘導性に与える効果などが報告された。3日目には受賞講演として独立行政法人物質・材料研究機構菊池正紀先生による、無機・有機界面を制御した骨組織誘導再生複合膜材料に関する講演が行われ、柔軟で骨誘導再生能を持つ膜材料の合成についての紹介がなされた。また一般講演では、金属イオン添加リン酸三カルシウム多孔質セラミックスの作製やゾル-ゲル法を用いたシリカ/有機高分子ハイブリッドバルク体の作製とその力学的性質についてなどが報告された。
 2日目に行われた戦略フォーラム「生体材料の新展開」では、多孔体セラミックスを用いた骨の組織工学や骨の再生医学と材料についてなど、組織工学の点から生体材料の必要性が述べられていた。
 今回のシンポジウムでは金属や高分子の話だけでなく、細胞の話などが頻繁に登場した。中でも、再生医学の話は非常に興味深かった。これから研究を行っていくにあたって、無機材料の知識一辺倒ではなく、高分子や生化学の知識を身につけていく必要があると感じた。

(2001年11月1日発行、The Division No. 27より)


第19回国際ガラス大会(XIX International Congress on Glass (ICG))
岡山大学 工学部
都留 寛治

 2001年7月1〜6日にスコットランドの首都エジンバラにおいて第19回国際ガラス大会(XIX International Congress on Glass (ICG))が開催された。Society of Glass Technologyにより主催されたこの学会は3年ごとに開催され,今年で19回目を迎える。学会が開催されたエジンバラ国際会議場(Edinburgh International Conference Center)は市の中心から徒歩圏内にある比較的便利な場所に位置していた。本会議はガラスの基礎科学から各種応用,芸術に至るまで55のセッションおよび2つのポスターセッションから構成されていた。生体関連材料に関する発表は私が確認できたもので約20数件程度あり,その内容は主に生体活性ガラス,ガラスセラミックスおよびコンポジットの生体親和性や力学的強度に関する研究であった。
 私が参加した「Biomaterials and biological systems」のセッションでは9件の口頭発表があった。参考までに講演題目及び演者を下記に紹介する。

Session Title 「Biomaterials and biological systems」
1) Gene activating glasses
  L. L. Hench, I. D. Xynos, A. J. Edgar, L. D. K. Buttery & J. M. Polak.
2) Piezoelectric properties of collagen-nanocrystalline hydroxyapatite composite films
  D. Thomazini, C. S. Silva, A. G. Pinheiro, J. C. G容s & A. S. B. Sombra
3) Process of apatite formation on amorphous sodium titanate in body environment
  T. Kokubo, H. Takadama & H-M. Kim
4) Fluoroapatite aluminium phosphate oriented glass ceramics
  C. Moisescu
5) Fluorcanasite glass-ceramics for dental applications
  C. W. Stokes, R. J. Hand & R. van Noort
6) Corrosion behaviour of some selected bio-glasses by different aqueous solutions
  El Batal
7) Glass ceramics for bone tissue repair
  C. A. Miller, I. M. Reaney, P. F. James, P. V. Hatton & T. Kokubo
8) Synthesis, characterisation and in-vitro evaluation of bioactivity of cerium doped glasses
  M. Poulain
9) Bioactivity and structure of alkali borosilicate glasses
  K. Tsuru, S. Hayakawa, C. Ohtsuki & A. Osaka

 Invited Lectureでは,バイオガラスの発見者であるL. L. Hench教授が「Gene activating glass」と題して講演された。45S5 Bioglassから溶出した無機イオンによって骨芽細胞の遺伝子が活性化され骨形成を促す可能性を示唆した興味深い報告を行った。ガラスから溶出する無機イオンが組織細胞の遺伝子に及ぼす影響を理解することは,ガラスの医用への応用に際し新たな設計指針を生み出してくれるものと期待される。次回,第20回国際ガラス会議は3年後の2004年に日本(京都)で開催される予定であるが,「Gene activating glass」をはじめ医用ガラスの新しい分野が開拓されることを願うと共に,私もその一人として努力したい。

(2001年8月1日発行、The Division No. 23より)


International Conference on Materials for Advanced Technologies(ICMAT2001)
京都大学工学研究科 材料化学専攻
川下 将一

 去る2001年7月1〜6日、Singapore International Convention & Exhibition Centreにおいて、Materials Research Society(MRS)Singaporeのオーガナイズにより、International Conference on Materials for Advanced Technologies(ICMAT2001)が開催された。この国際会議はSymposium AからSymposium Pまでの計16個のシンポジウムからなり、生体材料に関する研究報告は、Symposium B: Biomaterials and Tissue Engineeringにおいて行われた。このシンポジウムは、18件のKeynote Lecture、49件の一般口頭発表そして61件のポスター発表からなっていた。一般口頭発表のうち、ほぼ7割がTissue Engineering(組織工学)に関するものであり、残り3割が生体活性材料、生体吸収性材料及び表面コーティング材料等に関するものであった。
 一般講演初日の2日には、今日の組織工学の火付け役となった、C. A. Vacanti教授が講演を行った。最近の人々の興味を反映してか、会場に人が収まりきらなくなる程の大盛況であった。これに続き、この日は、組織工学において細胞増殖の足場(Scaffold)となる材料と種々の組織との反応に関する報告がなされた。特に、組織工学的手法による、腱(Tendon)の修復に関する報告が多く見受けられた。
 続いて3日には、まず最初に、京都大学再生医科学研究所の田畑泰彦教授が、成長因子を用いての組織の再生に関するKeynote Lectureを発表された。それに続き、その日の午前中は、ドラッグデリバリーシステム(DDS)における遺伝子あるいは薬物担体としての新材料の開発に関する講演が行われ、その日の午後は、組織工学用の種々のScaffoldの設計に関する講演が行われた。
 4日の午前中には、組織工学的手法による、肝臓等の軟組織修復用Scaffoldに関する講演が行われ、その日の午後には、軟骨等の骨組織修復用Scaffoldに関する講演が行われた。また、その日の夕刻からは、リッツカールトンホテルにおいてバンケットが催された。優れた研究成果を発表した学生の表彰や、Singapore National Universityの男女混声合唱団によるシンガポール民謡(?)の披露があったりと、同バンケットは、夜中の12時過ぎまで盛大に行われた。また、同バンケットにはシンガポール政府の文部大臣も参加し、講演した。
 5日になってようやく生体活性材料に関する講演が行われた、しかし、残念なことに、生体活性複合材料(Bioactive Composites)と題されたこのセッションには、私の発表を含め、合計9件の口頭発表しかなく、前日の深夜までのバンケットが祟ってか、聴衆も僅か20名程度に過ぎなかった。
 最終日の6日になると、さらに聴衆の数は減ってしまったが、関西大学の戸倉教授のアルギン酸繊維上へのキトサンのハイブリッドコーティング等、興味深い発表が散見された。
 全体を通してみると、一般口頭発表は、組織工学用Scaffold(高分子)に偏り過ぎているように思われた。私の発表は、カルシウム処理したアルギン酸繊維の擬似体液中におけるアパタイト形成に関するものだったので、余り違和感もなく、質問も出たが、金属やセラミックスに関する発表には、質問もほとんど出ず、十分なディスカッションがなされたとは到底思えなかった。
 確かに、現在、組織工学的手法による組織修復が「流行(はやり)」である。しかし、この手法により全ての組織が容易に再生でき、ありとあらゆる患者さんに容易に使えると決まった訳ではない。余りに組織工学的手法やそのための材料の開発ばかりに集中してしまうと、万が一これらが行き詰まってしまった時、結果的に、患者さんに使える生体材料の開発が遅れてしまうことになると思う。一つの手法や材料にだけ集中するのではなく、その他の手法や材料を見出す研究も平行して続けていくべきだと思う。
 最後に、本学会でのポスター発表について所感を述べたい。ポスター発表の中にも興味深い成果が散見されたが、このポスター発表自体はかなり冷遇されていたと思う。セッション終了毎にChair personがポスター発表の宣伝をしたが、ポスターの掲示板が口頭発表会場から離れており、しかも10個ほどの企業展示ブースの並びのさらに奥に配置されていた為、ポスターをきちんと見ていた人はごく僅かであった。また、ポスターが掲示されていなかったり、発表者が指定された時間にポスターの前に居なかったりと、発表者側もかなり真剣さに欠けていたように感じられた。
 学会発表するデータは、口頭発表あるいはポスター発表を問わず、いずれも、発表者が研究を重ね、その結果得られた成果であろう。ポスター発表が口頭発表よりも冷遇されて良い理由はどこにもない。ポスター発表には、相手と十分に納得いくまで時間を掛けてディスカッションできる、サンプルなどを実際に手に取って示しながら説明できる等、口頭発表にはないメリットがある。学会のオーガナイザー及びポスター発表者は、このような点を肝に銘じて、学会の企画運営及び発表をすべきであろう。

(2001年7月15日発行、The Division No. 22より)


日本材料学会創立50周年記念国際研究集会
奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科  
宮崎 敏樹
     

 日本材料学会創立50周年記念国際研究集会−21世紀の材料学−が、2001年5月21-22、25-26日に大阪大学コンベンションセンターにおいて開催された。生体関連セラミックスに関する研究報告は、環境融和セラミックスならびにマイクロマテリアルのセッションにおいて行われた。
 環境融和セラミックスのセッションにおいて、京都大学工学研究科の小久保正先生によりモApatite Formation on Metals Induced by Chemical Treatmentモと題した招待講演が行われた。破壊靭性に優れ、臨床応用されている金属材料であるチタンおよびその合金、タンタルに簡単なアルカリ水溶液および加熱処理を施すことにより、体内で骨と直接結合する生体活性を付与することができると報告された。これら生体活性な金属材料は、高い荷重のかかる大腿骨などにおいても使用可能な骨修復材料として有用であると期待される。
 同セッションの一般講演においては、新規な生体活性材料の設計に関する研究として、シランカップリングならびにカルシウムシリケート処理されたエチレン−ビニルアルコール共重合体繊維が擬似体液中で短期間にアパタイトを形成すると報告された。この結果は、骨に近い力学的性質と生体活性を併せ示すアパタイト−高分子複合体を得るための基礎的知見を与えるものと期待される。組織工学において細胞の増殖する足場(Scaffold)の材料として、ゼラチンとシリケートから構築された、生体活性と生体吸収性を併せ示す多孔質有機−無機ハイブリッドを合成し、それらのアパタイト形成能を擬似体液中で調べた結果について講演が行われた。さらに、アルコキシシラン化合物とカルシウム塩で修飾することにより、整形外科の分野で広く用いられているポリメチルメタクリレート(PMMA)系骨セメントに生体活性を付与することが可能であると発表された。
 体液環境下における人工材料表面でのアパタイト形成機構を基礎的に解明するための試みとして、環境融和セラミックスのセッションにおいて、種々の金属イオンを添加した擬似体液中におけるCaO-SiO2系ガラス表面でのアパタイト形成について、さらにマイクロマテリアルのセッションにおいて、擬似体液中における焼結水酸アパタイトならびに結晶化ガラスA-Wの表面構造変化を原子間力顕微鏡(AFM)の下でその場観察する研究の結果について報告された。
 環境融和セラミックスのセッションにおける参加者数は少なかったが、生体関連材料以外の分野を専門とする研究者も参加されており、基礎的な質問を中心に全体を通じて活発な質疑応答がなされていたことは好ましく感じた。

(2001年7月1日発行、The Division No. 21より)


103rd Annual Meeting & Exposition, The American Ceramic Society
岡山大学自然科学研究科 物質生命工学専攻
城崎 由紀

 2001年4月22日から25日の4日間,米国インディアナ州インディアナポリスにて,「103rd Annual Meeting & Exposition, The American Ceramic Society」が開催されました。私は一日目のポスターセッションで発表を行うために,本学会に参加しました。
 学会会場となったIndiana Convention Centerはインディアナポリスのダウンタウンに位置し,その周りは博物館や美術館などの美しい建物や公園で囲まれていました。昼間はとても暖かく,公園ではくつろいでいる人々の様子も見られ,とてものんびりとした雰囲気が味わえる町でした。またRCA Dome,隣接のホテル,センターモールなどとスカイウォークでつながっているため,各施設間の移動も便利で,本学会以外の催しも多く行われていました。
 今回の研究発表では5つのシンポジウムと8つの各部会に分類された計約1400件の発表が31会場で行われました。またExposition Hallではたくさんの企業や大学による装置などの展示が行われ,座ってお茶を飲みながら和気藹々と会話をしている様子が多く見られました。
 私の発表は「Materials for Medicine and Biotechnology 」のセッションで, 5つの内容でグループ分けされ,全体としては口頭発表44件,ポスター発表9件,計53件と本学会においては少し小さなセッションでした。一日目は「In Vitro and In Vivo Studies」と題して10件,二日目は「Processing」および「Mechanical Properties」と題してそれぞれ12件,7件の口頭発表がありました。電気化学的手法を用いてb-TCPを沈着させたカーボンやポリアミドファイバーを熱処理することによって中空のハイドロキシアパタイトファイバーを作製するという研究に興味が持たれました。実物のファイバーは曲げても簡単には折れないしなやかなものでした。アパタイトを基本とした様々な成型方法に関する研究が多く見られましたが,成形後の生体材料としての応用が不明瞭で,内容的にもデータが少ない発表が多く見られ少し物足りない感じがしました。しかし質疑応答はほとんどの発表で活発に行われ,休憩時間にさらに討論を深めている様子も見られました。
 一日目の午後からはすべてのセッションのポスター発表がExposition Hallで行われました。企業の展示が全面に配置され,その奥へポスター会場が設置されていました。「Materials for Medicine and Biotechnology」のセッションのポスター発表は8件でした。口頭発表の内容を少し詳しくしたポスター発表が多く,学生も気軽に質問ができる雰囲気があって,活発な討論がなされていました。口頭発表と同様,アパタイトを合成し成形するという内容で,合成・成形の手法を検討している発表が多く見られました。それらの研究のほとんどが成形した材料上での細胞培養実験を行っていましたが,このセッションと結びつけるために行ったのではないかと思われるものが多く,細胞培養実験の位置づけが不明瞭で少し残念な気がしました
 他のセッションに比べ申し込み人数が少ないにも関わらず,当日になってキャンセルされる発表や,内容的に生体材料としての目的がはっきりしない研究やまだまだ基礎研究が足りない研究が多く,本学会の中では少し低迷しているような感じを受けました。

(2001年6月1日発行、The Division No. 19より)


第2回国際ハイドロキシアパタイト会議
(2nd International Conference on Hydroxyapatite and Related Products)
旭光学工業株式会社
小川 哲朗

 2001年3月6日から8日まで米国カリフォルニア州サンフランシスコにおいて、第2回国際ハイドロキシアパタイト会議(2nd International Conference on Hydroxyapatite and Related Products)が開催された。講演数は20件、参加者は10カ国から約60名で前回(1999年リヨン)と同様小規模な会議であったが、アパタイトのメーカー、ユーザーである企業と大学の研究者の間で、アパタイトの吸着特性とバイオ医薬品の分離・精製プロセスへの応用を中心に活発な討論がなされた。「ハイドロキシアパタイトの構造と物理化学的特性」のセッションでは低結晶性やナノ結晶アパタイトの溶解特性、b-FGFなどの成長因子吸着特性、表面修飾による吸着特性制御、ウラン、プルトニウム、鉛、カドミニウムなど汚染土壌中の微量金属、放射性元素の大規模吸着除去実験、パーフュージョン構造を持つアパタイトのタンパク吸着特性などの報告があった。「ハイドロキシアパタイトによるプラスミドDNAおよびウイルスの精製」のセッションでは遺伝子治療用ワクチングレードのプラスミドDNAとRNAの分離、感染性を持ったウイルス粒子の分離、フォスフォセリンの吸着、流動層型カラムや連続カラム法によるプラスミドDNAの精製の実例に関する報告があった。
 「ハイドロキシアパタイトによる抗体等タンパク質の精製」のセッションでは、単一分子であるモノクロナール抗体の更なる分離、医薬品のスクリーニング、構造解析用結晶タンパクの精製、イオン交換、疎水クロマト、分子ふるいなど他の吸着剤に対する優位性研究、タンパク負荷量とカラム寿命、プラント由来金属イオンの吸着の影響など医薬品製造の現場で得られた貴重な結果の開示があった。「ハイドロキシアパタイトの新規用途」のセッションでは、アパタイトを用いた経皮薬物送達システム、ウイルス抗原をコートしたアパタイトビーズによる抗体測定法、アパタイトビーズを充填したカラムを用いた細胞培養バイオリアクターなどの新しい領域の技術開発報告があった。
 現在プロセスクロマトグラフィー用充填剤の市場はワールドワイドで200億円程度で、60%をファルマシアの製品が独占し、残りを7社が分け合い、アパタイトはわずか2%前後に過ぎない。しかし、ジェノミクス、プロテオミクス、トランスクリプトミクス、メタボロミクスという一連の技術開発の流れの中で遺伝子解析と平行して、タンパクやDNAの解析・製造に関わる吸着、分離担体としてのセラミックが脚光を浴びる可能性がある。特にアパタイトはカルシウムイオンとリン酸イオンからなる両性イオン交換体であり、単純なイオン交換樹脂より吸着能や分離精度の点で優れている場合がある。 
また細胞や増殖因子を組み合わせた次世代人工骨材料を開発するためにもこれら生体高分子とセラミックの相互作用に関する解析が必要である。
 今回の会議で良かった点は、参加者が全員ホテルに缶詰になり朝昼晩顔をつきあわせて議論したため業種、研究領域を越えて情報交換ができ、親密な関係をつくれたことである。ただし、参加した製薬企業はすべて欧米で日本の製薬企業からの参加者はゼロであり、我が国のバイオ医薬品開発の将来が危惧された。今回の会議のabstractと次回(2003年)の開催情報は下記のウェブサイトで入手可能である。興味のある方は以下のURLにアクセス願います。
 http://hydroxyapatite.freeservers.com/index.html

(2001年5月2日発行、The Division No. 17より)


日本セラミックス協会2001年年会
京都大学工学研究科 材料化学専攻
上高原 理暢

 去る平成13年3月21-23日の3日間、早稲田大学において、日本セラミックス協会2001年年会が開催された。この年会の“生体関連材料”のセッションについて報告する。
 講演内容は、セラミックスの学会ということもあり、アパタイトやリン酸カルシウムに関するものが多く、その合成法、物性、コーティング、分極、複合体、表面での細胞培養などが報告された。人体中に存在するセラミックス(無機成分)であるという点から考えると、骨修復材料としてのリン酸カルシウムが生体関連セラミックスの中心になることは、当然だと思える。しかし、世の中には他にも多数のセラミックスや材料があるので、もう少し色々な材料が生体関連材料として出てきても良いのではないだろうか。また、現在、生体関連セラミックスは、骨修復に重きが置かれているが、セラミックスには骨修復以外の用途があるのではないだろうか。新たな用途を開拓することにより、生体関連セラミックスは、より発展できるだろう。
 特別講演では、立石哲也先生によるティッシュエンジニアリングの技術戦略に関する講演がなされた。日本企業は、生体材料のシェアにおいて、かなり欧米に遅れをとっている。また、ティッシュエンジニアリングの分野においてもかなり遅れをとっているようである。そのような状況の中で、ティッシュエンジニアリングセンターが始動し、やっと日本でも政府がティッシュエンジニアリングに力を入れようとしているようである。今のところ、ティッシュエンジニアリングでできることは、未だほんのわずかであり、将来、理想どおり何でも再生できるようになるかどうかは疑問ではある。しかし、本当に実用化までいけば、今では実現できない治療が可能となり、怪我や病気をした人の生活が非常に改善されると期待されるため、お金をかけてみる価値は十分にあるだろう。将来、自分が、それらの技術が必要になるまでに、できるようになってもらいたいものである。
 今回の学会に参加し、生体材料を扱う上では、細胞や生体反応に関する知識が最低限は必要であると痛感した。最終的に材料の生体適合性など見るためには、細胞の反応を見る必要があり、やはり細胞を避けて通ることはできない。たとえ、材料の生体適合性などの細胞を用いた材料評価を専門家に依頼するにしても、細胞について何も知らないというのでは、材料開発の際にやはり困るだろう。また、現在、ティッシュエンジニアリングが脚光を浴び、細胞の研究が盛んに行われている。これに同調すべきかどうか考える上でも、細胞に関する知識は必要であるだろう。これからの時代、セラミックスだけとかある特定の分野だけで閉じこもることなく、より広い視野が必要となってくると思えた。

(2001年4月17日発行、The Division No. 16より)


第39回セラミックス基礎科学討論会
法政大学大学院・東京医科歯科大学
小幡 亜希子

 2001年1月25〜26日に開催された第39回セラミックス基礎科学討論会は、初日に小雨の降るあいにくの天気ではありましたが、数多くの研究者の方々の参加により盛大なものでありました。私個人につきましては、当討論会は今回が初めての参加でありましたが、その規模の大きさに驚きました。講演数は2日間で228件であり、その分野は誘電体・サイアロン・非酸化物・物性・ジルコニア・合成法・セラミックスのケミカルデザイン・環境科学・ガラス・生体材料・焼結・SOFC・アルミナ・薄膜・電池材料・熱電材料・電気伝導・チタニア・その他と、非常に幅広く興味深いものでした。会場となりました津市にありますプラザ洞津は、大変立派な建物であり、A〜Eと5つに分けられた会場は、それぞれが開放的な雰囲気のつくりをしており、参加者にとって快適な環境でありました。そして、それぞれの会場に用意されていたおよそ100の席は常に参加者でほぼ埋まる状態であり、熱気あるものでありました。発表ではもちろん活発な討論が盛んに行われ、持ち時間18分を発表者及び聞いている参加者の方々もめいいっぱいに発表と討論に用いられていました。また発表内容がたいへん多岐にわたっているため、自分自身の研究分野とは異なり、比較的普段触れる機会の少ない分野についても当討論会で触れることができ、私自身大変勉強になりました。それと同時に、研究というのは常に広い視野を必要とされるものであるとつくづく実感させられました。一つの専門分野を極めることは大事なことでありますが、その過程において他分野の様々な情報を得て、それらから新しいアイデアを生み出すことも意味あることと考えられます。
 私が参加させていただいた生体材料分野においては、特に水酸アパタイトに関する研究が数多く、その合成や形成機構、および細胞との供培養やポーリングによる処理などの結果が発表されました。その他に生体活性ガラス、結晶化ガラス、自己組織膜、MgO分散炭素球、木材/シリカ複合体に関する研究などが発表され、どれもオリジナリティーあふれる研究でありとても興味深かったです。その中でも特に木材/シリカ複合体に関する研究は、まだまだ生体材料としての応用は難しいにしても、アイデアが特異的でありとても興味深く、今後の研究が楽しみなものでありました。
 大変すばらしい討論会ではありましたが、その中でもいくつか気になった点がありました。それは討論会が終わりに近づくほどに参加者の数が減ってゆき、終盤に限っては「活発な討論」からは少し遠い状況でありました。おそらく参加者が全国にわたるためにしょうがないことではありますが、是非今後は可能な限り最後まで皆様が討論に参加していただけたらと思いました。
 当討論会は、様々な分野における最新の動向を知る絶好の機会であり、次回も多くの皆様が参加され、かつ熱気あふれる討論が繰り広げられることを期待したいと思います。

(2001年3月16日発行、The Division No. 14より)


第13回国際医用セラミックスシンポジウム
無機材質研究所
末次 寧
 

平成12年11月22日から11月26日までの5日間、イタリア国ボローニャ市、ボローニャ大学リッツォーリ整形外科研究所において、第13回国際医用セラミックスシンポジウム(the 13th International Symposium on Ceramics in Medicine)が開催された。発表総数は290件(口頭138件、ポスター152件)と例年の2倍程度におよび、参加者も320名を超え極めて盛会であった。本シンポジウムが医用セラミックス分野における最新の研究の報告の場として、また各国の研究者の交流の場として国際的に最も重要な立場にあることは間違いない。発表件数を国別に見ると、我国が約70件で主催国イタリアの2倍近い堂々の第1位であった。この傾向はここ数年変化しておらず、本分野での日本における研究活動の活発性、日本の担う役割の重要性を示している。実用化の面でも早く国産の製品が世界の市場を席捲するようになることが望まれる。
 発表内容の大体の分類とそれぞれの件数は以下の通りであった。人工関節:33件、人工骨:8件、リン酸カルシウムセラミックス・生体模擬反応等:86件、 細胞・生体の反応:43件、組織工学:18件、ガラス材料:17件、複合体:31件、リン酸カルシウムセメント:27件、臨床応用:27件。組織工学および複合体に関する研究発表数の増加が顕著であり、関係者の興味が生体為害性の無い消極的な生体親和性の材料から細胞の反応を積極的に利用した生体活性材料へ移行しつつある傾向が如実に現れている。
 筆者の関係する材料科学分野では発表件数こそ多かったものの、新規な材料の開発や、素材そのものの基礎的研究が若干軽視されているように感じた。生体材料の開発が帰納的な動物実験データの積み重ねに立脚することは当然であるが、直接実用化に結びつかないように見える材料科学的基礎データの蓄積こそが、生体親和性や生体活性、特に骨誘導能・骨伝導能のメカニズムの解明につながり、演繹的材料設計を可能にすると考える。
 なお今回はサテライトシンポジウムとして、主催国イタリアの著名な研究者が中心となり、医療現場から見た医用セラミックスの現状と未来に関する9件の講演を行ったが、これは医療現場に接する機会の少ない若い材料研究者にとって、現場の関係者が材料に求めている緊急性を理解する上で大変貴重であると感じられた。
 最後に学会主催者のお骨折りを慮った上で敢えて付け加えさせて頂くと、発表の半数以上がポスターによるものであったのにもかかわらず、ポスターセッションの時間的・空間的環境が討論に適していなかったことが少々気にかかった。ポスター発表には研究者同士が個別に時間をかけて討論できるという、口頭発表に無い有意性がある。口頭講演会場だけでなくポスター会場の手配にも今少しの心配りを頂きたいと、今後本シンポジウムを主催される先生方に切にお願い申し上げるものである。

(2001年2月2日発行、The Division No. 10より)


第20回整形外科セラミック・インプラント研究会
奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科
宮崎 敏樹

 第20回整形外科セラミック・インプラント研究会は、2000年12月2日に大阪市立大学医学部において開催された。140余名が参加し、一般講演35件、特別講演2件の計37件の講演が行われた。
 「バイオアクティブセラミックスに対する生体反応1」のセッションにおいては、主として工学系の研究者により新規な生体材料の設計に関する発表がなされた。その中で、破壊靭性に優れるもののそれ自体骨と結合しないジルコニアセラミックスに種々の化学処理を施し、骨と結合する生体活性を付与する試みに関する発表に興味が持たれた。「バイオアクティブセメント」のセッションにおいては、今年6月に発売されたばかりのリン酸カルシウム系骨セメント「バイオペックス(R)」に関する研究発表が多数行われ、同セメントの力学的性質の評価、生体内埋入試験ならびに練和方法の改良に関する報告がなされた。
 ランチョンセミナーでは佐賀医科大学の佛淵孝夫教授による「セラミック人工股関節の短期成績」と題した講演があり、臨床の現場、とりわけ患者の生活から見た人工股関節置換術治療の実際についての報告がなされた。患者の方々が快適に過ごすための助けとなる生体材料を設計するに際しては、患者側の視点を常に心に留めておかなくてはならないと感じた。引き続いてパリ大学のAlain Meunier教授によって"Alumina on alumina THA -from basic research to clinical results-"と題した特別講演が行われ、1970年から実用化されたアルミナ骨頭とアルミナ球蓋とを組み合わせた人工股関節の改良の経緯ならびに使用成績に関する講演が行われた。実用化された直後には高い割合で埋入後に破壊が生じたが、アルミナの高密度化、気孔率の低下、粒径の減少などの改善策により、埋入後に破壊を生じる割合は0.05%にまで減少したと報告された。
 「セラミックの臨床応用(股関節)」のセッションの中では、骨セメントと人工股関節との間に生ずる緩みを防ぐために、骨とセメントとの界面に水酸アパタイト顆粒を充填する方法とその臨床成績についての報告があった。「セラミック骨頭人工股関節の有用性」のセッションにおいては、人工関節の摺動面における摩擦を低減するためのモデル実験として、アルミナ表面にシランカップリング剤を用いてフルオロアルキル化し、同処理により摩擦係数が減少したという報告がなされた。
 全体を通して質疑応答がいささか少ないのは残念ではあったが、セラミック生体材料の臨床応用に関する最新の動向を知る絶好の機会であった。

(2001年1月15日発行、The Division No. 9より)


Materials Research Society Fall 2000 Meeting
無機材質研究所       生駒 俊之
科学技術振興事業団CREST 佐藤 公泰

 2000年11月27日から12月1日まで、米国マサチューセッツ州ボストンにおいて、「Materials Research Society Fall Meeting」が開催されました。私たちは医用材料に関するセッション(Orthopaedic/Dental Biomaterials)に参加すべく、直前にイタリアでおこなわれた学会に参加した後、直接ボストンに入りました。
 学会は、Sheraton、Marriottなどのホテルをつなぐショッピングモールに隣接したHynes Convention Centerを中心として開かれました。MRS Meetingは、材料科学の国際学会の中でもきわめて規模が大きく、その内容も多岐にわたります。学会会場で手渡される予稿集は、1ページあたり5つほどの発表に関する原稿が掲載されており、しかもページ数は700を軽く越えています。予稿集のページをパラパラと繰ると、そこかしこに興味深い研究が紹介されており、しかし自分で直接発表を聞くことのできるのはそのうちのほんの1部だけで、いささかもどかしいような気分にさえなりました。会場に隣接するショッピングモールは、食事時ともなると世界中から集まった学会参加者があふれ、独特の雰囲気となります。レストランのテーブルにつけば、両隣から材料科学に関する会話が聞こえてきます。このような、国際色豊かで活気にあふれた雰囲気を味わうことも、私たちにとっては大変有意義なことに思えました。
 私たちは、ハイドロキシアパタイトなどのリン酸カルシウム結晶を有機高分子と複合化させることで、医用材料、特に人工骨や人工軟骨としてのより高い機能をもつ新物質を創るという研究をすすめています。MRS Fall Meetingにおいては、この一連の研究のうち、ハイドロキシアパタイト結晶の表面・界面における構造や無機結晶/有機高分子間の化学結合状態の評価を中心とした発表をおこないました。高分解能透過型電子顕微鏡による界面の直接観察や無機/有機界面の電子状態計算によって明らかとなった知見、それをふまえて実際に合成された無機・有機複合体の医用材料としての可能性について述べました。発表後には、会場外においても米国の研究者らに多くの質問をうけ、我々の研究が彼らの興味を引いたことに大きな満足といささかの安堵を覚えました。
 我々の参加した医用材料に関するセッションにあっては組織工学に関する発表が増加傾向にあり、この分野に利用可能な材料(細胞培養の足場となる材料など)の研究が世界中で盛んにおこなわれていることが実感されました。リン酸カルシウムと有機高分子の複合体をそのような目的に利用しようという試みもなされています。組織工学用の材料を新規に開発する上でも、我々の発表した無機/有機界面の構造・結合状態に関する知見は有用であると感じられ、この学会への参加が、私たちにとって研究へのモチベーションを大いに高めることにつながりました。

(2001年1月15日発行、The Division No. 9より)



最終更新日:2004年8月3日

Back