ニュースレター「THE DIVISION」

REPORT「学会参加報告」から


CIMTEC2002 (International Conferences on Modern Materials & Technologies) 参加報告
京都大学大学院 エネルギー科学研究科
小澤 尚志

 CIMTEC2002 (International Conferences on Modern Materials & Technologies, 10th International Ceramics Congress & 3rd Forum on New Materials) が、2002年7月14日〜7月18の日程でイタリアで開催された。かつてルネッサンスの中心地であったフィレンツェにおいて、International Ceramics Congressが14のセクション、Forum on New Materialsが7のセクションにわかれて、セラミックスを中心とした最新の材料技術について活発な研究発表、討論が行われた。生体関連材料に関しては、Forum on New Materials のセクションの一つとして6th International Conference on Materials in Clinical Applicationsが開かれた。

 6th International Conference on Materials in Clinical Applicationsは計7つのセッションを4日間にわたって連日活発な討論が行われた。発表件数は口頭52件、ポスター34件であった。Materials Research and Developmentのセッションでは、口頭17件、ポスター22件の発表が行われ、7つのセッション中最も多い発表件数であった。百人程度収容可能な会場に80人ほどの聴衆を集めた。リン酸カルシウム系骨セメントの最近の研究、ケイ酸塩系歯科用セメントの改良、放射線治療用のセラミックス微小球、ヒドロキシアパタイト生体活性セラミックスのハイブリッド合成、アパタイトのマイクロパターニング、骨修復用無機−有機ハイブリッド、生体骨類似構造を有するナノアパタイト−有機高分子繊維複合体の作製、チタン系生体医療用材料の最近の動向、ドラッグデリバリー機能を有するタンパク質−セラミック複合体骨置換材など、最新の生体関連材料についての研究動向に関する報告があり、活発な質疑応答が行われた。発表内容全体の傾向としては、ヒロドキシアパタイト系のインプラント材料の研究開発に加え、ナノ構造制御、ハイブリッド化、微細加工などを利用した生体材料の高機能化を目指す研究が増えつつあるのが感じられた。Tissue Engineeringのセッションでは、ティシュエンジニアリングによる骨軟骨置換材料の作製、生体吸収性複合膜を用いたguided bone regeneration、guided tissue engineeringのための多孔質シリカ系生体活性ガラスインプラントなどに関する報告があったが、近頃活発な研究分野としては発表件数が口頭5件、ポスター2件と少なかった。材料研究者中心の会議であったからであろうか。Surface Analysis and Characterizationのセッションではチタンおよびチタン合金の表面処理による生体活性付与などについての報告が行われた。Biomechanics/Elaboration of Prosthesesのセッションでは、超音波を用いた骨の機械的特性評価などに関する報告があった。

 全体として質疑応答は割合活発であったが、セラミックス、金属、高分子など多様な材料分野の研究者が集まった会議だけに、表面的な議論に留まることも多かった。Materials Research and Developmentのセッションが行われた初日は多くの聴衆を集めたが、会期が後半になると、学会会場から人が少なくなっていった。これはフィレンツェの観光地という土地柄いたしかたないか。

(2002年9月1日発行、The Division No. 37より)

日本バイオマテリアル学会シンポジウム
「京都における再生医学研究の現場から」参加報告
京都大学工学研究科 材料化学専攻
上高原 理暢

去る平成14年2月28日、京都において、日本バイオマテリアル学会シンポジウムが行われた。今回のシンポジウムでは、京都大学再生医科学研究所を中心に第一線で研究されている若手研究者の講演会を中心に行われた。ES細胞、細胞増殖の制御、ドラッグデリバリーシステム等の講演があり、活発な質疑応答が行われた。私は京都大学の一員にもかかわらず、京都大学再生医科学研究所においてこれほど多くの研究者によってこれほど多岐にわたって再生医科学の研究が行われているということに驚かされた。京都大学を含め、現在、いかに再生医科学に力が入れられているのかうかがい知ることができた。
  特別講演では、組織工学と再生医学という演題で、東京女子医科大学の岡野光夫先生の講演が行われた。組織工学において、細胞シートを三次元的に重ねていき、組織、器官、臓器を作ろうという今までとは少し異なった方法を提案され、その目的のための細胞シートの作製法について報告された。温度応答性培養皿を用いることにより、目的にあったきれいな細胞シートが得られることが報告された。この方法で、きれいな心筋細胞のシートが得られ、得られたシートがきちんと収縮運動もすることを、ビデオで見せていただいた。培養した心筋細胞がきちんとその働きを保持していたことに感動した。
  講演を聞いていると、再生医科学により、色々なことができるようになったような印象を受けた。しかし、未だ実用化しているものが少ないことを思うと、多々解決すべき問題があるのかもしれない。講演会では、そのあたりのことはよく分からなかった。基本的に講演会というものが、アピールの場であることを考えると、問題点をあえて言う人もそうはいないとは思うが、そのあたりのことも分かるような講演会もあったら面白いかもしれない。
  再生医科学の分野で研究が行われている生物関係についてのことはよく分からなかったが、岡野先生の講演を聞くと、材料をやっている研究者も再生医科学に貢献できることが多くあるのではないかと感じた。再生医科学が実際に使えるようになるためには、生物系と材料系の研究者が、より親密に連携し、相互に協力しあう必要性を感じた。一日も早く再生医科学の技術が応用され、多くの人々が救われるようになることを期待する。

(2002年4月1日発行、The Division No. 32より)


The 26th Annual International Conference on Advanced Ceramics & Composites参加報告
ファインセラミックスセンター
高玉博朗

 去る2002年1月13〜18日、アメリカのフロリダ州ココアビーチにおいて、The 26th Annual International Conference on Advanced Ceramics & Compositesが開催された。本学会は、The American Ceramic Society主催の学会であり、毎年1月ココアビーチで開催される国際学会であり、今年、新たにバイオマテリアルのセッションが加わった。
  今回はバイオセッション初開催ということで、まず始めに東京医科歯科大の山下仁大先生の招待講演があり、何件かの口頭発表の後、京都大学の金先生やImperial CollegeのBoccaccini先生などの招待講演があった。バイオマテリアルに関しての発表は、口頭発表は2セッション、18件、ポスター発表は7件の合計25件あり、(1)人工骨関連:計17件(口頭発表13件+ポスター4件:そのうち、材料開発:4件、反応機構解明:2件、細胞実験:2件、動物実験:2件、臨床報告:2件、機械的特性評価:2件、評価技術開発:3件)、(2)歯科分野:7件(口頭発表4件+ポスター3件:そのうち、歯根等の材料開発:3件、充填剤等の材料開発:3件、その他:1件)、(3)ティッシュエンジニアリング:1件(口頭発表)であった。バイオ関連の発表のうち、人工骨関連の発表が約3分の2、歯科分野の発表が約3分の1を占めており、バイオマテリアルに関してのセッションにしては、歯科分野の発表がやや多い印象を受けた。さらに人工骨関連の発表のうち、SBFを用いたin vitro実験結果の発表と、細胞実験やin vivo実験結果の発表がほぼ同数を占めており、材料系の学会にしては生物学的な立場からの発表が多く、材料側からの意見だけではなく、生物学的な観点からの意見も数多くあり、活発な討論が行われていた。また扱っている材料は、ほとんどがセラミックス単体であり、金属材料を扱った研究は5件、有機と複合化した研究は5件であった。また、その他のセッションでも、生物によって作られる構造をバイオテンプレートとして利用するバイオミメティックな方法で、セラミックの気孔や構造を制御する研究発表も多数行われていた。
  最後に、現在を含め過去30年間、日本はバイオセラミックスの分野で世界のトップを走ってきたが、この分野での日本の海外市場への進出は消極的で、逆に海外企業が日本に進出してきているのが現状である。そこで、今後も日本が世界のトップを維持し続け、世界市場に日本のバイオセラミックスの技術をアピールするためには、日本国内に留まらずに、海外に、例えばここアメリカに新たな拠点を開拓することが非常に大切であると思われる。幸いにも、このバイオセッションは始まったばかりの上、このセッションのオーガナイザーの一部を日本が担当しており、さらに次回のオーガナイザーの依頼もきている。そのため、本学会を日本のバイオセラミックスをアピールする拠点とするのには好都合である。このような機会は、日本のバイオセラミックスを世界に知らしめるチャンスとして大いに利用すべきであると思われる。現状では、まだ発表件数は少ないが、これからこのバイオセッションの存在をInternational Symposium on Ceramics in Medicineなどを通じて世界にアピールして盛況にし、ひいてはバイオセラミックスの分野を日本がリードできるようにすることが大事であると思われる。

(2002年3月1日発行、The Division No.31より)


第17回 日本アパタイト研究会 参加報告
山口大学大学院医学研究科 応用医工学系 博士前期課程1年
川内 義一郎

 去る2001年12月6日と7日の両日、山口県宇部市の国際ホテル宇部において、第17回日本アパタイト研究会が開催された。参加者には、医師および歯科医師が約20名含まれており、基礎から応用まで融合した研究会となった(参加者数;114名、特別講演;1件、一般講演;36件)。今回は、日本で初めて医工学博士の授与される独立専攻 応用医工学系が山口大学に設立されたのを記念して、アパタイトだけにとらわれない応用医工学・医療・福祉分野のセッションもあり、活発な議論が行われた。
 特別講演は『応用医工学におけるトランスレーショナル・リサーチ -先端医療機器開発における医工の連携-』と題して斉藤 俊 教授(山口大学大学院 医学研究科 応用医工学系 バイオマテリアル医療工学講座)によって行われた。本年度、山口大学大学院 医学研究科内に新設された応用医工学系の成り立ちを通して、医学と工学の融合の必要性とその実例についてのご講演であった。
 一般講演としては、アパタイトをキーワードとした研究と応用医工学・医療・福祉分野の研究発表が行われた。セッション「アパタイト」ではアパタイトの微粒子、薄膜、バルク、複合体の合成や評価といった材料科学等の話から“β-TCP骨補填剤(オスフェリオン)の使用経験”、“不安定型橈骨遠位単骨折に対するバイオペックスの応用”といった実際の医療現場での使用まで多岐にわたった。また、セッション「応用医工学・医療・福祉」では“粘弾性有限要素モデルによる臓器の変形挙動解析”や“瞬きを用いたコミュニケーションシステムの研究”、“人工股関節再置換術の適応と手術手技の工夫”といった幅広いテーマで講演がなされた。各発表において活発な議論が行われ、有意義な意見交換がなされていたと思う。
 急速な高齢化の進行と再生医療・組織工学の現実化によって、バイオマテリアルとしてのアパタイトの重要性が高まっている。さらに言えば、バイオアクティブな材料はアパタイトを介して骨と結合することからアパタイトの基礎科学の充実はきわめて重要である。また、環境問題の深刻化によってエコマテリアルとしてもアパタイトが注目されている。本研究会の参加によってアパタイトの奥深さを再認識した。特にバイオマテリアルの開発においては開発者(理工薬学をはじめとする科学技術者)と使用者(医療関係者)との交流が叫ばれている。本研究会はアパタイトをキーワードとして科学技術者と医療関係者が共に集うものであった。このような会に積極的に参加することによって、さまざまな分野の研究者と出会い・意見交換をすることが重要であると感じ、次回は発表者として参加できるよう日々過ごしてゆきたい。

(2002年2月1日発行、The Division No. 30より)


第23回 日本バイオマテリアル学会大会 参加報告
奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科
稲田 博文

 去る平成13年10月22日、23日の2日間、京都市の京都テルサにおいて、第23回バイオマテリアル学会大会が開催された。511名の参加を得て、一般講演、シンポジウム、学会賞受賞講演合わせて168件の発表が行われた。今回の大会においては、金属・高分子・セラミックスなどのバイオマテリアルやそれらの複合材料、DDS及び遺伝子治療のためのバイオマテリアル、組織工学など、多岐にわたる講演がなされた。さらにこれらの一般講演とは別に「骨修復の現況」「低侵襲治療のためのバイオマテリアル」と称する2つのシンポジウムが行われた。これらの中から「骨修復の現況」のシンポジウムと、セラミックバイオマテリアルのセッションについて報告する。
 1日目に行われた「骨修復の現況」のシンポジウムにおいては、まず、はちや整形外科病院の蜂谷裕道先生により同種骨を用いた骨修復の臨床例と、そのために必要となる骨銀行に関する現状報告がなされた。次いで人工材料を用いた骨修復に関する報告では、セラミックスを利用した脊椎変形の矯正の例、関節の再建に関する報告、セラミックスの問題点である脆さを改善するための新材料創成、ナノメートルレベルで有機材料と無機材料を複合化した新材料に関する報告と続き、さらに再生医療に関する最新の報告や、2001年4月に開設した産業技術総合研究所ティッシュエンジニアリング研究センターの現状報告などがなされた。
 2日目に行われたセラミックバイオマテリアルの一般講演においては、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてアパタイト形成機構をナノメートルレベルで解明する研究や、高い気孔率と高い機械的強度を併せ持つ完全連通孔高強度アパタイト多孔体の合成に関する報告などが行われた。さらに整形外科の分野で広く用いられているポリメチルメタクリレート(PMMA)系骨セメントをカルシウム塩とアルコキシシラン化合物で化学修飾することにより、セメントに骨結合性を付与する研究に関する発表がなされた。
 私は今回初めてこの学会に参加させていただいた。患者さんが望むバイオマテリアルの開発をより盛んにするためには、材料を創る工学系の研究者とそれを使う医師が協同して研究の場を持つことが重要であるといわれている。この点からも、両者が一同に会する本学会は非常に意義深いと感じられた。実際、一般講演において、両者の立場から討論が行われているケースが多数見られ、私個人にとって非常に参考になった。今回は、聴衆として参加させていただいたが、次回は発表者として参加したいと感じたとともに、今後もこのような行事が多く開催されることを希望したい。

(2002年1月1日発行、The Division No. 29より)


第5回 生体関連セラミックス討論会 参加報告
上智大学 理工学研究科 応用化学専攻
伊藤 まどか

 “第5回生体関連セラミックス討論会”が、去る平成13年11月29日、30日の2日間、三重県津市のプラザ洞津において開催された。今回の研究発表は、「セラミックス」、「ハイブリッド・コンポジット」、「表面処理・改質」、「コーティング・セメント」、「生体親和性・組織反応」の5つのセッションに分かれており、2日間で計35件の講演が行なわれた。
 1日目には、自己組織化膜による表面デザイン、多孔質有機-無機ハイブリッド、アパタイト-有機高分子繊維複合体、チタン合金上など各種材料表面でのアパタイト形成能や、AFMによるアパタイト形成表面のその場観察、分極させた材料上でのエレクトロベクトル効果などの報告があった。また、DDSによる臨床応用を考えた高周波誘導熱プラズマ溶融法による癌放射線治療用セラミックスの作製、そしてα-TCP多孔体へのヒドロキシプロピルセルロース(HPC)の複合化や口腔内亜鉛徐放化製剤からの亜鉛放出挙動の制御などの興味深い報告も見られた。
 2日目には、「コーティング・セメント」において、PMMA系骨セメントへの生体活性付与とアパタイト形成能に及ぼすカルシウム塩の影響、チタン上へのアパタイトコーティングと骨との結合強度を改善するためのチタン基板中へのカルシウムイオンの注入、プラズマ溶射法によりアパタイトコーティングを作製する際のプラズマガス雰囲気の影響などの報告があった。「生体親和性・組織反応」においては、水酸化カルシウム製剤への硬化性付与や、実際の臨床における石灰化の基礎的知見といった、今までの視点とは少し異なる研究報告があった。また、炭酸含有アパタイト、無機-有機ハイブリッドの生体内反応、分極処理したアパタイト上での細胞培養の結果や生体内反応などについての報告もあった。
 今回の討論会では、先生方のみならず学生からも多くの質問がなされ、どの発表におきましても、昨年度より活発な討論が繰り広げられていたように思う。中には、時間が超過しても討論が続く場面も見られた。
 討論会終了後、同じくプラザ洞津にて懇親会が開かれた。今年は、各大学の代表者が指導教官について語るという面白い企画もあり、終始和やかな雰囲気のもと、討論会では聞けなかった疑問点やお互いの研究について、じっくりと語り合い、理解を深めることができたと思う。
 全体を通して生体材料の現在の動向や現況を知ることにより、今後の応用や展開について考える機会をもてたことは、有意義であったと思った。

(2002年1月1日発行、The Division No. 29より)

最終更新日:2004年8月3日

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