研究紹介 「生体分子計測デバイス」
グルタミン酸を計測するマイクロ流体酵素センサ
私たちは、単一の神経細胞から放出される神経伝達物質(特にグルタミン酸)を細胞直下で計測することを目的に、微小な酵素センサの開発を行っています。
このセンサは、グルタミン酸とその酸化酵素の触媒反応によって生ずる過酸化水素を電気化学的に計測することによって、グルタミン酸の濃度を知るものです。
通常の酵素センサでは、酵素は電極表面に固定化されて用いられます。
しかし、単一細胞からの化学的信号を計測するために電極を微小化すると、固定化される酵素量が減少するために、計測に必要なだけの大きさの応答電流値が得られなくなる恐れがあります。
そこで、私たちは、酵素を固定化せずに流体として用いることにより、酵素固定化量の制限を無くしました。これにより、酵素反応が効率的に行われ、計測の高感度化と高速化が図れると考えています。
開発したセンサには、神経細胞培養用チャンバの直下に、電気化学的計測用の電極とマイクロ流路を設けています。
培養チャンバと流路は酸化シリコン膜によって隔てられていて、この酸化シリコン膜上の作用電極内に形成されたナノホールを通じて、グルタミン酸を培養チャンバから流路側に拡散させます。
流路内には酵素溶液が満たされているので、ナノホールを通過したグルタミン酸は効率よく酵素反応を起こし、過酸化水素を生成します。
この過酸化水素が直ちに電極と電子の授受を行うので、電極を流れる電流量を計測することにより間接的にグルタミン酸濃度を知ることができます。
さらに、ナノポーラス構造を有する白金黒で作用電極内のナノホールをふさぐことによって、分子量の大きな酵素を培養チャンバ内に漏れ出させずに、
分子量の小さなグルタミン酸を培養チャンバから流路側に透過させます。この白金黒は、作用電極の表面積を大きくして応答電流量を大きくすることにも寄与しています。
現在は、このセンサの製作方法の確立と基本性能の評価を行っています。将来は、神経変性疾患の細胞治療や神経生理学における基礎研究などに役立てたいと考えています。