研究紹介 「細胞刺激デバイス」

培養細胞への薬剤放出を制御するデバイス

病気や事故で失った神経細胞の機能を修復する細胞治療や再生医療が注目を集めています。 この医療を実現するには、化学的あるいは物理的な刺激を作用させることにより、神経細胞の成長を制御したり、神経幹細胞から所望の神経細胞へ分化誘導する技術が必要です。 そこで、私たちは、マイクロバルブやマイクロ流路などを1つのシリコン基板上にシステム化することにより、培養神経細胞に対する化学的刺激を制御するデバイスを構築しました。

このデバイスは、細胞を培養するチャンバと、細胞に対して薬物を放出するためのナノホール、薬物を導入するマイクロ流路、薬物の放出量を制御するマイクロバルブなどから構成されています。 培養チャンバとマイクロ流路はナノホールのみでつながっています。マイクロバルブは、流路表面の親水性・疎水性を利用したもので、T字型の流路の交差部に構築されています。 外部から圧力を加えるとバルブが開き、薬物が拡散により運ばれ、最終的にナノホールを通じて細胞に放出されます。バルブの開閉を制御すれば、細胞への薬物放出量を制御できるわけです。 実際に製作したデバイスの流路幅は60μm、流路の深さは10μmで、流路の途中に内径0.5μmのナノホールが100個構築されています。

現在までに、バルブの開閉により薬物放出の制御ができることと、ある薬物を実際に培養神経細胞に作用させることによってその神経細胞の成長具合を制御できることを確認しました。 このデバイスの大きな特徴は、細胞に極めて近い場所で、細胞の極めて微小な領域に、極めて微量な薬物を直接作用させることができることです。 この特徴を生かして、生体の微小な領域における機能の解析や神経インタフェース技術などへも応用が可能であると考えています。

薬剤放出制御デバイスの概要

流路側から撮影したSEM写真

親水・疎水性を利用したマイクロバルブ

神経成長因子の放出による神経軸索の伸長制御