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安藤研究室

ANDO Laboratory

研究内容

最近の研究/latest research

 世界を取り巻く環境問題は、地球温暖化だけでなく、海を漂うマイクロプラスチック(MP)も問題となっており、ダイオキシン類やポリ塩化ビフェニール(PCB)などの有害な化学物質を吸着するため、食物連鎖により魚や動物だけでなく、人間にも悪影響を及ぼすことが懸念されます。その一方では、暮らしの中には大量のプラスチック製品が溢れており、プラスチックを社会からなくすことは難しい背景があります。

 地球上で最も賦存量の多い資源である木質バイオマスは、光合成を利用した循環型材料です。木質バイオマスでも大量に廃棄される植物油の搾油滓や繁殖速度が多く森林を侵食し、地滑りなどの災害の原因になっている竹などは廃棄せざるを得なくなっており、放置竹林をはじめとして管理が困難な木質バイオマスは地域の課題になっています。このような廃棄物を削減するため、非可食性の木質バイオマスの利用が徐々に広がっています。草木等の種類によって木質バイオマスの主要成分であるヘミセルロース、セルロース、リグニンの組成比や分子量は異なります。したがって、木質バイオマスを材料に利用するためには、各成分を抽出し、その用途開発が必要です。

 本研究室の取り組みは、地域課題を解決するために木質バイオマスを資源元とする材料の開発をする研究をおこなっています。例えば、竹や油ヤシから抽出するセルロースの活用に向けた基盤技術の確立とその派生技術の応用展開です。竹やアブラヤシなど生育の早い木質バイオマスは、光合成が活発であり、多くのCO2が固定化された材料とみなせます。地域課題である竹をCO2固定材料として社会的付加価値、そして素材としての商品的付加価値を上げることで竹の回収から消費、そして光合成を使った再生という消費流れを作ることができます。その結果、地域企業・地域環境・地域社会に対して3方良しの環境調和型ゼロ・カーボンサイクルを生み出すことが期待できます。

 環境に低負荷な反応でセルロースやリグニンなど構成物質を分別して取り出す技術を基盤にして、そこから得られる材料の付加価値化へつなげるための研究に取り組んでいます。

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資源循環型材料/Sustainable materials

特徴:環境に優しい高分子設計

 代表的なバイオプラスチックの一つであるポリ-L-乳酸(PLLA)は、発酵産物であるL-乳酸から作られており、優れたケミカルリサイクル性を有していることから、資源循環型材料として知られている。PLLAの物性は、汎用樹脂であるポリスチレンやポリエチレンテレフタレートと類似しており、さらに、生体適合性で生分解性という発酵産物由来ならではの特徴を有することから、その幅広い活用が期待されている。
しかし、PLLAは、石油由来の汎用樹脂に比べて、耐熱性や耐衝撃性に課題を有しており、さらにその物性は光学純度に依存するため、高温下で構造異性化(ラセミ化)が進むと物性の著しい低下を生じやすい。
 そこで、PLLAの問題点の克服を基本的な化学構造の視点から解決するため、PLLAのメチン水素をメチル基で置換し、光学不活性なポリテトラメチルグリコリド(PTMG)への誘導をおこなった。発酵産物であるピルピン酸および乳酸を原料として、化学的手法によってHIBAへと誘導し、PTMG合成へとつなげ、その資源循環特性を明らかにした。さらに、バイオマス由来のポリメタクリル酸メチル(PMMA)まで展開をおこなっている。

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気相重合法/Gas-phase polymerization

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環境に優しい表面改質法
 気相重合法はモノマーや有機試剤をガス化させて、容易に基質の微細構造空間中にモノマーや有機試剤を拡散させ、複雑な表面を持った基質でも表面で反応させることが出来る界面での重合法である。また、溶剤を使わないため環境負荷が少ない。表面被覆は、最少限のモノマーの使用量で出来る。
 例えば、バイオマス含有率の高い高分子複合材のマスターバッチを作成できる。従って、気相法を利用してバイオマス材料を細密被覆することで、表面の性質を制御し、バイオマスとプラスチック材料間の親和性を高めてその複合化を容易にすることができる。
 興味深い点は、基質の表面とモノマー吸着の界面に於いて、従来の液相法とは異なる新たな界面構造の構築に関する情報が得られる事が考えられる。

天然素材を利用した機能性材料

バイオマスの有効活用
 我々は両親媒性材料についてもバイオマス由来の材料を利用して多孔質膜の作成を試みた。高機能化という側面からのアプローチとして、高湿度雰囲気下で自己組織化により得られるハニカム状多孔質膜への応用に着目した。この方法で作成される多孔質膜の形成プロセスには溶液中の両親媒性材料が重要な役割を果たしている。これまで、両親媒性材料としてランダム共重合体やブロック共重合体、そしてポリイオンコンプレックス等が用いられてきた。
 しかし、大豆由来のレシチンを利用することで図に示されるような多孔質膜を得ることが出来た。ガス流量、基板の温度やポリ乳酸の分子量の違いなど多孔質膜の形成に対する影響についても検討した。
 また、得られた多孔質膜を鋳型として利用し、無機微粒子を塗布後、400℃で焼結を行った結果、無機材料薄膜が得られ、その構造は、使用するポリマーの分子量に大きく影響されることがわかった。

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廃棄物を利用した機能材料

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環境共生機能性材料
 金属加工工場から排出される廃棄物から特殊な処理をすることで簡便に金属微粒子を回収し、金属フィラーとして利用することに成功した。種々の高分子材料と複合化することで、熱伝導性、導電性、電磁波遮蔽性など多くの有用な機能を付加した材料を作成することに成功した。